渇望
「…えっ…」


瑠衣に腕を引かれるが、その様子をジュンが見ている。


どちらかを振り払うことも出来ないまま、あたしはただ、ふたりの間で目だけが泳ぐ。



「おい、邪魔だ。」


刹那、本日三度目の衝撃が走った。


その台詞を発した人物は、瑠衣でもジュンでもなく、あたし達の後ろにいた。



「…緒方、さん…」


男の名を呟いたのは、瑠衣。


あぁ、やっぱり知り合いだったのかと、あたしは僅かに唇を噛み締めた。


緒方さんは、オーシャンやクリスタルの元締めの組のカシラであり、詩音さんと何らかの関係を持っていると噂の人。


あたしも何度か会ったことだけはあったが、ジュンだって一応幹部らしく、はっとして頭を下げた。



「何だよ、誰かと思えばお前か!」


「ご無沙汰しています。」


瑠衣もまた、聞いたこともないようなかしこまった台詞で頭を下げた。


緒方さんという人は、きっと一見すればヤクザの、しかもカシラだなんて誰も思わないだろう。


確かに眼光は鋭いし、本当はきっと身も縮むほど恐ろしいのだろうけど、でも物腰は柔らかいから。



「おいおい、こりゃ参ったな。
お前ら知り合いだったのか。」


「え?」


瑠衣の疑問符を制止できなかった。


緒方さんが次に言うだろう台詞を止める術なんて、あたしにはなかったんだ。



「揃いも揃って稼ぎ頭が3人集合してやがって、どうしたんだよ。」

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