渇望
「…稼ぎ、頭…?」


言ってから、瑠衣はあたしへ視線を向ける。


なのに、余程何か嬉しかったのか、緒方さんは続けて言った。



「ホテヘル店の台頭と、わざと二番手に甘んじてるホスト。
ついでにシャブさばいてるお前が知り合いだったなんて、この街も狭いもんだなぁ。」


こりゃ傑作だ!


そう言って彼は腹を抱えたのだけれど、あたしはといえば、ひどく困惑していた。


それが瑠衣の本当の仕事。



「百合っつったっけなぁ、お前。」


瞬間、緒方さんの視線がこちらへと滑らされ、あたしは顔を上げた。



「詩音から色々聞いてるけど、まぁ気張れや。
アイツも認めてるくれぇだから、せいぜい客引いてくれよな。」


はい、としか言えなかった。


瑠衣があたしを見ていることもわかっているが、でも何が言えるわけでもない。



「まぁ、お前ら今度ゆっくり話しでもしようじゃねぇか。」


そして緒方さんは、瑠衣の肩をぽんぽんと叩き、笑いながら店へと足を進めた。


一瞬迷った様子だったジュンは、何も言わず緒方さんの背を追うようにきびすを返す。


恐ろしく冷たい風が吹いた。



「百合、とりあえず風邪引くから。」


そう言った瑠衣も、行くぞ、と足を進める。


結局はあたしも、彼の言葉に従うことしか出来ない。


ふたり、無言のままに車に乗り込み、重苦しい沈黙だけが包んでいた。

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