渇望
瑠衣の部屋に入っても、あたし達は選ぶべき言葉さえも見つけられなかった。


彼は黙って冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを差し出してくれるが、あたしはそれさえ受け取れない。


元ホストで、色枕だったとしても良かった。


けれど、瑠衣は今、覚せい剤をさばいていて、そして緒方さん達とも繋がってる。


法律違反だから悪い、なんて模範的な言葉を並べるつもりは毛頭ないけれど、それでもシャブがどんなものかくらい知っているつもりだ。



「お前にはあんま知られたくなかったんだけどなぁ。」


ソファーに腰を降ろし、瑠衣は煙草を咥えて宙を仰いだ。



「別に何の言い訳するつもりもねぇけど、生きるためにはさ、どんな手段使っても稼がなきゃなんねぇんだよ。」


この街に、綺麗な人間なんていない。


金の稼ぎ方も人それぞれ、善悪も、道徳も、きっとそれを引き換えにしないとここでは暮らせない。


より稼ぐには、よく黒くなれ、だ。


瑠衣の言っている意味がわからないわけではないから、それが汚いことだとは決して言えない。



「今の時代、ヤクザがシャブに関わると、組もろとも一斉摘発受けるから。
あいつら、それが誰であろうとシャブでパクられたら破門だしさ。」


だから下請けみたいなものだと、瑠衣は言う。


表立ってシャブをさばけない彼らの代わりに、カタギにやらせるということだ。



「でもアンタ、昔はホストだったんでしょ?」


知ってたのか、と肩をすくめ、瑠衣は静かに煙草に火をつけた。


少し離れた位置で壁に寄り掛かり、あたしは言う。



「伝説の色枕ホストだった、って。」


伝説って何だよ、と彼は笑ってから、

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