渇望
「まぁ、色でも枕でも、別にそれで稼げるんなら何でも良かったんだけど。
気付いたら緒方さんに気に入られて、飽きて辞めようと思ってた時に今の仕事の話を持ち掛けられて。」


そんな感じ、と瑠衣は簡素に言う。


けれど、この人がどれほど酒や女に依存しているのかは知っている。


客であろうと抱くことで、彼は一瞬でも救われていたのだろう。



「それよりお前、ホテヘル嬢だったのか。」


責めるでもなく言う瑠衣に、



「…知ってたんでしょ?」


「まぁ、そういう系のことやってんだろうなぁ、とは思ってたけど。」


そんなに稼いでんの?


笑い話のように言ってくれて、だから少し安堵した。


アンタだってどうせ他の女抱いてるもんね、なんてことは言えないけれど。



「嫌な繋がりだな、俺ら。」


呟きが、物悲しくも消える。


決して広くはないこの街で出会うことも、こんな繋がりがあることも、珍しくはないのだと、どうしてもっと早くに気付けなかったのか。


初めて緒方さんの名前を聞いた時、ちゃんと考えれば良かったのに。



「仕事辞めろとか、言わないんだね。」


きっとあたしは、心のどこかで瑠衣にそう言ってほしかったのかもしれない。


そして反面で、絶対に彼があたしにそんなことを言わないこともわかっていた。


どちらも汚れているからこそ、互いに強制出来る立場にないのだ。


瑠衣もまた、仕事を辞めるとは言わなかった。

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