渇望
「アキトはただの我が儘なんだよ。
欲しいと思ったら欲しい、ってだけの、ただのガキ。」


瑠衣は見下すような目を細める。



「昔も今も、成長ねぇもんな?」


アキトは僅かに憎々しげな顔になった。


互いを蹴落とすような言葉ばかり選んで、疲れないのかといつも思う。



「瑠衣は昔から、俺のモンを横取りすんのが得意だもんね。」


「百合は別にお前のモンじゃねぇだろ。」


「でも、瑠衣のモンでもないよ。」


勘弁してほしい。


笑顔でもふたりの目は笑ってはおらず、どちらも子供のようだと思う。


それはおもちゃを奪い合っているようなもので、きっとその対象物はあたしじゃなくても良いのだろう。



「ちょっと、喧嘩してんじゃないわよ!」


いつもそうやって仲裁するあたしは、母親かよ、って感じだけど。


誰かの所有物でいることは楽だ。


けれども反面で、自由でなくなるならばそれが怖い。



「あたしのこと取り合って、何か意味あるわけ?」


あたしが眉を寄せると、アキトは誤魔化すようにわざとらしく肩を上げる。


瑠衣もまた、答えず煙草を吸っていた。


肝心なことを何ひとつ言わないのは、こいつらの悪いところだろう。



「放っときゃ良いって、こんなガキ。」


瑠衣が鼻で笑うと、



「さすがは年上、上から目線がお好きだもんねぇ?」

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