渇望
つまりはこうだ。


瑠衣の父親と母親は、瑠衣が生まれた直後に離婚した。


そしてお父さんは昔からの付き合いだったアキトのお母さんとすぐに再婚し、アキトが生まれた。


法的には何ら問題はない、ただの異母兄弟。



「だから隠すことじゃないっしょ?」


けれどこのふたりには、もっと別の因縁めいたものがある気がしてならない。


大体、そんな関係なのに一緒にいるなんて普通じゃ考えられないし、互いのことを良く思っていないのは、見ていればわかる。


今は父親を憎んでいる、と確かに聞いた。


復讐のために生きている、と言っていたアキトの矛先は、瑠衣なのだろうか。


でも、何で?



「瑠衣は父親似だもんね。
んで、俺は俺の母親に似てるから、俺らは顔が似てないわけ。」


カシャン、カシャン、とアキトの手の中のジッポが金属音を鳴らす。


彼はあたしに向けていた瞳を瑠衣に移し、



「初めて会ったのは、親父が死んだ時だったよね?
んで、それから俺の母親が自殺するまで瑠衣はうちに足しげく通ってくれてさ。」


自殺?


それでも瑠衣は、表情ひとつ変えることなく、短くなった煙草を灰皿になじった。



「瑠衣はね、ひとりぼっちになっちゃった可哀想な弟の俺を助けてくれたんだよね?」


ちっとも感謝していない様子で、アキトは笑顔のままに吐き捨てる。



「俺の母さんは、どうして自殺したのかな。」


まるでそれは、瑠衣の所為だと言っているかのよう。


あたしは先ほどから、ふたりの間で交互に視線を動かすことしか出来ない。


すっかり冷めてしまった焼き鳥も、気泡が消えたビールでさえも、何ひとつこの会話を止める要因にはなってくれない。



「瑠衣、理由知らない?」

< 177 / 394 >

この作品をシェア

pagetop