渇望
「そんなの俺が知るわけねぇじゃん。」


ふうん、とアキトは目を細める。


まさか、いくら瑠衣でも人を殺した疑惑があるなんて、冗談じゃない。



「あっきーはさ、悲劇の王子様を気取りたいだけだろ?
そうやって何もかもを俺の所為にして、自分が世界で一番可哀想って言い聞かせて。」


バンッ、とテーブルを叩く音。


恐ろしいほど歪んだ顔のアキトは、叩き付けた拳を震わす。


個室と言えど、一瞬にして店内は静まり返り、唇を噛み締めた彼だけが立ち上がった。



「それでも殺人者よりずっとマシ。」


吐き捨て、アキトは部屋を出る。


恐る恐る隣の瑠衣に視線を移すと、彼は舌打ちを混じらせて目を逸らす。



「信じるなよ、あんなの。」


でも、アキトの目は本気だったよ?


そう言いたかったけど、瑠衣はあまりにも辛そうな顔であたしを見た。



「アイツの母親は、最愛の旦那を失った悲しみからの、精神錯乱の末の自殺。」


それ以上でも以下でもねぇんだ。


信じてほしいと言いたげなその瞳が、僅かに揺れる。



「あれは俺の所為じゃねぇ。
でもアキトは、あの頃からずっと俺が殺したって思ってる。」


疑われるような何かがあったからじゃないのか。


そうでなければアキトだって、きっとあんな風には言わないはずだ。


もう、何が何だかわかんなくて、ただ瑠衣を信じ切れない自分がいる。



「…あんたら、一体何なの…?」

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