渇望
アキトはもしかすると、瑠衣の一番近くで復讐のチャンスを狙っているのかもしれない。


瑠衣だってそれをわかった上で、血の繋がった彼といる。


憎み合いながら、この街で共に生きている。



「アキトの母親も、それにそっくりなアイツも消えれば良い。
あっちがあったかい家庭作ってる頃、捨てられた俺や俺の母親は苦しかった。」


だから瑠衣がアキトを嫌う気持ちも、わからないわけではないけれど。


家族がいないと言ったこのふたりは、悲しいかな世界中で唯一の肉親同士だ。



「母さんは、愛人に妻の座を奪われて、人生狂わされて。」


そこまで言った瑠衣は、言葉を飲み込んだ。


そして悲しそうに息を吐く。



「俺の母親だって自殺したっつの。」


こんなにも泣き出してしまいそうな彼を見るのは初めてだった。


半分だけ血を分けた兄弟は、共に母親の自殺という苦しみを味わい、それを互いの所為だと思うことで生きている。


瑠衣は奪われたと思いながら、アキトは殺されたと思いながら。



「…どうして、そんなっ…」


そんな風にしか生きられないの?


けれど、言葉にはならなくて、あたしの方が泣きそうになる。


利用しているとか企んでいるとか、その意味に今更気付いた気がして、ただ唇を噛み締めた。


ふたりは奪い合うように、互いの大切なものを壊そうとしているだけ。


つまりはそこにいたのがあたしだったというだけのことだ。



「お前はアイツには渡さねぇよ。」

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