渇望
憎々しげに、彼は言う。



「悔しがって、あの顔が歪めば良い。
自分が何にも出来ないクズだって思い知れば良い。」


この人は、狂っているのかもしれない。


けれど、いつもふたりっきりの時に見せる顔は、嘘ではないと思いたいんだ。


瑠衣もアキトも、互いを苦しめようとしながらも、自分の方が苦しそうな顔をしているから。


このふたりは、近過ぎる距離にいるのが悪いだけ。



「やめて、瑠衣。」


本当は傷つきやすくて、すごく弱くて、でも優しい人。


だから彼にそんな台詞を言ってほしくなくて、唇を噛み締めた。



「あたしを復讐の道具にしないで。」


言った瞬間、瑠衣はまた目を逸らした。



「初めはそのつもりだった。
けど、お前のこと好きって言ったのも、本心だから。」


ミイラ取りがミイラになった、というやつだろうか。


けれどもそれは、孤独を埋め合うだけで、互いになくてはならない存在だと錯覚しているだけなのかもしれない。


無意味なだけの関係なんだと、もうずっと前からわかっていたはずだった。



「百合、頼むから俺の傍にいろよ。」


縋るように呟かれた、その台詞。


それは瑠衣からの、初めての要求だったのかもしれない。


その他大勢ではないけれど、でも唯一無二でもないということは知っている。


この街でアキトと生きながら、孤独を埋めるように女を抱き、瑠衣は誰かを探している。


アンタは決してあたしを選ばないくせに。

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