渇望
いつまで経っても鳴り止まない着信音の方に目をやるが、でも瑠衣は制止しているかのようにあたしを掴んだままだ。


深夜のこの時間に一体誰なのかはわからないけど、それでも何故か気になってしまう。


少しの沈黙の後、彼はため息を混じらせてあたしから離れた。


体を起こし、バッグに投げ入れたままだったそれを取り出してみれば、ディスプレイには“ジュン”の文字。


あの日以来、連絡を取り合うことはなかったけど。



「もしもし、どしたの?」


通話ボタンを押してみれば、彼の声より先に、後ろのうるささが耳につく。



『なぁ、今からオーシャン来られない?』


「……え?」


『頼むよ、マジで。』


こんなことを言われたのは初めてだ。


瑠衣はあたしに背を向けてしまうし、どうしたものか。


沈黙するしか出来ずにいると、



『かおちゃん、様子が変なんだ。』


「…香織が、何?」


『何か泣いてて、なだめようとしたヘルプのヤツに怒り始めて。
このまま飲ませてんの良くないし、百合とりあえず来られないか?』


香織が泣いてる姿なんて、想像出来ない。



「ちょっと、流星は何やってんの?」


『いつも通り。
他の卓に大事なお客いるから、って。』


「何それ、信じらんない!」


悲しいけれど、目に浮かぶ。


だから余計に放っておくことなんて出来るはずもないだろう。

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