渇望
弾かれたように顔を向けた瞬間、あたしの腕が掴まれていた。


柔らかい口調とは裏腹に、流星の目は笑ってなどいない。


こんな状態の香織を、まだ繋ごうとするのか。



「黙っててくんない?
あたし、アンタと喋ってんじゃなんだけど。」


「香織は俺の客。
だからいくら百合ちゃんでも、帰りたくないって言ってんのを無理に引っ張っていく権利、ないと思うよ。」


まさか、コイツに喧嘩を売られるなんて思いもしなかった。



「今日、香織いくら使ってんの?
アンタそれ、どうやって稼いでるか知ってるでしょ?」


「自分の意思で仕事して稼いだ金をどう使おうと、本人次第じゃんか。
別に百合ちゃんが払うんじゃないんだし、関係ないっしょ。」


掴まれた腕が痛みを放っている。


コイツ、本気であたしだけをここから追い出そうとしているらしい。



「離せって言ってんの、聞こえなかった?
アンタさぁ、ホストのくせに女に手上げるとか言わないよね?」


「迷惑な客は出禁だって、そっちこそわかってんの?」


香織は目を逸らしたままだ。


つまりはそれが答えと言うことだろうけど。



「香織、いい加減にしなよ!
アンタだってホントはわかってんでしょ!」


「百合!」


今度はジュンに制止された。



「流星くん、とりあえずその手、離してもらえます?」

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