渇望
ジュンの睨みに、彼も渋々手を離した。


香織は顔を俯かせたまま涙を堪えているが、それでもここから離れようとはしない。



「百合のこと出禁にすんなら、散々さっきまで泣き喚いてたかおちゃんも出禁っすよね?」


「万年2位が俺に意見してんじゃねぇよ!」


流星は舌打ちを混じらせ、奥に消えた。


瞬間にフロアがザワつき始め、あたしは悔しさの中で唇を噛み締める。



「百合、こっち来て。」


ジュンはあたしをトイレまで引っ張っていく。



「ごめん、こんなことになるなんて思わなかったから。」


「良いよ。
別にジュンの所為じゃないんだし。」


一緒に帰郷した時にも、同じような会話をした気がするが。


香織に届かなかった想いが、虚しく彷徨っているかのようだ。



「あたしはさ、安い心配しか出来ないの。
本気で助けようとしないくせに、良い人っぽくして優しい偽善者でいたいだけだから。」


「んなこと言うなよ。
何だかんだ言って、お前はかおちゃん迎えに来たじゃん。」


「…そりゃそうだけど…」


でもきっと、それは自分のためでもあったのかもしれない。


あんな状態の瑠衣といるのが怖かったのは本当だし、正直ほっとしている気持ちもあった。


真綾は絶対半端に手を差し伸べるようなことはしないから、また自分の醜さを痛感させられる。


流星が嫌いだった。


けれどそれは、香織が一番に求めるものだったからなのかもしれない。


大切なものさえ見えないあたしの、小さな嫉妬心。

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