渇望
「言いてぇことそれだけなら、さっさと帰れよ。」


瑠衣はアキトの胸ぐらを掴み上げた。



「そんな邪険にしないでよ、これでも心配してんだから。」


「…心配だと?」


「毎年あの日が近付く度に塞ぎ込むくせに。
震えて泣いてるんじゃないかと思って、会いに来てあげたのにさ。」


ひどいなぁ、とアキトは笑う。


互いの傷をえぐり合い、憎しみ合う血を分けたふたり。



「どうせ百合にも八つ当たりしてんでしょ?」


「関係ねぇだろ!」


声を張り上げた瑠衣に向け、



「アンタは一生そうやって生きてろよ。
誰にも愛してもらえず、孤独の中で死ねば良い。」


吐き捨てられた台詞が、ぼとりと床に落ちた気がした。


相手の死を望むだなんて、これほど悲しいことはないだろう。



「いい加減気付きなよ。
アンタが探してる女だって、今頃笑って暮らしてるって。」


アキトは掴まれていた胸ぐらに掛けられていた瑠衣の手を払い退け、



「百合だって所詮、同情してここにいてくれてるだけなのにさ。」


そんな言葉を残し、部屋を出た。


あたしは恐る恐る瑠衣へと視線を移すけど、その瞳がこちらに向けられることはない。


結局、ろくな言葉も見つけられないままだ。

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