渇望
「…瑠衣…」


呼ぶと、彼はため息を混じらせて宙を仰ぐ。


まるで涙を堪えているかのような、悲しそうな顔だった。


同情ではない、とは言い難い。


今の瑠衣は、オーシャンで飲んだくれていた香織の姿と重なって、だからきっとこれも、優しさではないのかもしれない。



「なぁ、俺のこと怖い?」


瑠衣は顔を覆った。



「自分の母親に一緒に死のうって言われて刺されて、なのにひとり生き残って。
金のためには何でもやろうって色枕のホストしたけど、今は結局シャブ売ってて。」


気持ち悪ぃとか思ってんだろ?


瑠衣は唇を噛み締め、息を吐いた。



「腹の傷がさぁ、毎日痛ぇの。
その度にあの頃のこと思い出して、吐きそうになって。」


だから瑠衣は酒や女に逃げるのだろうか。


耐えきれない痛みを抱えながら、必死で何かで誤魔化そうとしているのだろう。



「…ねぇ、アンタが探してんのって…」


「血の繋がらない妹。」


どういう意味だろう。


眉を寄せたあたしに彼は、



「母親の再婚相手の娘。」


と付け加えた。



「…再婚、相手?」


反すうするように呟くあたしに、瑠衣は思い出すように過去を話し始めた。

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