渇望
瑠衣は息を吐き、あたしを見つめた。



「もう祥子と会うことは二度とないんだろうし、心のどこかで諦めてる自分がいる。
ホントは全部捨てて百合のこと考えれば良いのに、って。」


過去に縛られているということ。


前を向けば進むべき道はいくらでもあるのに、自らでそれを絶って生きてきたのだろう。



「俺、ひとりになりたくねぇの。
けどそれって、お前の意思も全部無視してるってことだもんな。」


愛し、愛されるということがわからない。


いつかいなくなるのならば縛り付けることで安心したいのだろうし、体を重ねることでしかその方法を見い出せない。


あたし達は弱い生き物だ。



「お願いだから、もうそんな風に生きるの止めようよ!
そんなんじゃ誰も幸せになれないってホントはわかってるんでしょ!」


縋るように、瑠衣の体を揺すった。


けれど彼は、静かにかぶりを振り、悲しそうな瞳を伏せる。


それは瑠衣の生きてきた今までの全てを否定することになるのだろうか。


でも、その所為でこんな顔ばかりしているのならば、もう見たくはなかった。



「泣くなよ、百合。」


一体何に傷つき、涙を流していたのだろう。


ただ、それでも瑠衣と一緒にいる意味を探そうとしていたのかもしれない。


彼はいつも怯えるように体を丸めて眠り、小さな物音ひとつに敏感に反応していた。


包丁を恐れ、アキトと喰うか喰われるかの骨肉の争いをしながら、なのに共にここで生きている。


瑠衣の心の中は、いつも正反対のふたつで溢れていたね。


どうしてもっとちゃんと傍にいてあげなかったのだろうかと、今では後悔ばかりだよ。

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