渇望
「瑠衣からはどこまで聞いたの?」


その問いに、なんと答えれば良いかもわからず、首を横に振った。


まさか、父親やその家族の全てを壊してやろうと心に誓ったところまで、なんてことを言えるはずもないだろう。


アキトは宙を仰いだ。



「そんなにあんな男と一緒にいたいわけ?」


そういう言い方はないだろうけど。


でも、その苦虫を噛み潰したような顔には憎しみさえこもって見える。



「あんな男と幸せになれるとか、ホントに思ってんの?」


「別に幸せになりたいなんて思ってないよ。」


「じゃあ、何で?」


理由が知りたいのはあたしの方だ。


瑠衣との関係を終わらせるのは、このまま続けていくよりずっと簡単だとも思う。



「一緒にいたいなら、当たらず障らず、って言わない?」


けど、それでも、もう見て見ぬふりは出来そうにないから。



「てゆーかね、俺が言うのも何だけど、過去って他人の口から聞くべきじゃないと思うけど。」


そんなこともわかってる。


あたしはアキトの瞳を真っ直ぐに見据えた。



「でも、アンタの口から、アンタが思ってる瑠衣のことを聞きたいの。」


言うと、彼は一瞬戸惑うように目を丸くし、でもすぐにそれを伏せた。


沈黙が訪れてからどれくらいだったろう、アキトは短くなった煙草を消し、あたしを見た。



「憎んでるのは本当だよ、瑠衣のこと。」

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