渇望
どこにでもあるような、ごく平凡なだけの家庭で育った。


庭付き一戸建てを買えるほど裕福ではなかったけど、それでも泣くほど悲しいこともなかった。


誕生日には毎年プレゼントを貰っていたし、母さんはいつも、サッカーに熱を上げていた自分を応援してくれた。


父さんは、「将来はサッカー選手に決定だな。」と言うような人で、だからごく当たり前の幸せを噛み締めていたんだ。


残念ながら、サッカー選手になりたいという夢は小学生の時点で破れていたけど、中学生になる頃には、漠然と建築関係の仕事をしたいと思うようになっていた。


今にして思えば、夢を持てるということだけで幸せな人生だったのだろう。


父さんと母さんは、深く愛し合っていた。


学生時代は3人から同時に告白されたことがある、と嘘か真実かいつも言う、美人の母さん。


そんな彼女の手料理が何より好きだと言う、父さん。


だから当然のように、自分も大人になれば、こんな家庭を築くものだとも思っていた。


何も疑わなかった。


決して純粋に、真っ直ぐにだけ生きてきたわけではなかったけど、それでも非行と呼べるほどの親不幸はしていないつもりだ。


本当はただ、何も知らなかっただけなのに。







それは高校に入学してすぐの頃。


ある日突然父さんは心筋梗塞に倒れ、そのまま還らぬ人となった。


元々血管が細かったという話は聞いていたけれど、でも死ぬにはあまりにも早い。


母さんはあまりのショックに倒れるし、自分自身、正気を保つことで精一杯だった。


だって、昨日まで笑い合っていたはずなのに、って。

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