渇望
今にして思えば、全ての始まりは父さんが死んだことによるものだったのかもしれない。


失意の中で執り行われた葬儀に、その男はやってきた。


年の頃は自分と同じくらいの、見も知らぬ彼。


けれどもその顔があまりにも父さんに似ていて、だから最初は幽霊とか幻なのかとも思っていた。


でも、違ったのだ。



「参列させていただけますか?」


それが男の第一声。


同い年くらいだとは思えないほど丁寧な口調と、そしてひどく冷たい瞳。


何より父さんの生き写しのような顔。



「…アンタ、誰?」


怪訝な顔を向けたのに、口元だけで笑った彼は、



「俺も父さんと最期の別れをしたいから。」


父さん?


その言葉の意味はわからなくとも、目に見えた血の繋がりが全てを表している。



「アキトくん、だよね?」


凍りついてしまうほど、冷たい微笑だった。


後から母さんに聞いた話でまとめると、こうだ。


父さんは、母さんと結婚する前に家庭を築いていて、簡単に言えば略奪婚。


前の奥さんとの間には、生まれて間もない子供がいたけど、でも父さんは自分を選んでくれたのだ、と。


腹違いの兄の名は、瑠衣。

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