渇望
「俺も少し前に母を亡くしました。
だから身内がいないんです。」
きっちりと正座をした瑠衣は、そう言った。
「前妻の息子である俺を、快く思わないのは当然だと思います。
でも俺は、雅子さんもアキトくんも恨んでいませんよ。」
今にして思えば、そんな言葉を信じるべきではなかったんだ。
でも母さんは、まるで長年の呪縛から解き放たれたような顔で、涙しながら聞いていた。
「息子にしてほしい、なんておこがましいことは言いません。
それでも、頼らせてほしいんです。」
突然現れた、兄だという男。
ずっと心の底では兄弟が欲しい、と思っていて、だから天涯孤独だと話す瑠衣の言葉に胸を打たれた。
「きっと、父さんが結び付けてくれた縁なんでしょうね。」
それが最後に背中を押す一言だったのかもしれない。
きっと母さんは過去のことに少なからず罪悪感を持っていたのだろうし、瑠衣に父さんの影を求めていたのかもしれない。
母さんは精神を病んでいた。
それに気付いたのは、もっとずっと後のことだったけど。
いつしか瑠衣が家族の中に入ってくるようになっていた。
とりわけ母さんは、最愛の男の顔をした瑠衣に、頼るように依存することも増えていた。
何かが歪み始めていた。
けれど、父さんの死を乗り越え、普通の生活を手にすることがどれだけ大変だったろう。
瑠衣は母さんだけでなく、自分にも良くしてくれた。
だから多少の疑問はあったけど、それでも前を向こうと必死で、何にも気付けなかったんだ。
だから身内がいないんです。」
きっちりと正座をした瑠衣は、そう言った。
「前妻の息子である俺を、快く思わないのは当然だと思います。
でも俺は、雅子さんもアキトくんも恨んでいませんよ。」
今にして思えば、そんな言葉を信じるべきではなかったんだ。
でも母さんは、まるで長年の呪縛から解き放たれたような顔で、涙しながら聞いていた。
「息子にしてほしい、なんておこがましいことは言いません。
それでも、頼らせてほしいんです。」
突然現れた、兄だという男。
ずっと心の底では兄弟が欲しい、と思っていて、だから天涯孤独だと話す瑠衣の言葉に胸を打たれた。
「きっと、父さんが結び付けてくれた縁なんでしょうね。」
それが最後に背中を押す一言だったのかもしれない。
きっと母さんは過去のことに少なからず罪悪感を持っていたのだろうし、瑠衣に父さんの影を求めていたのかもしれない。
母さんは精神を病んでいた。
それに気付いたのは、もっとずっと後のことだったけど。
いつしか瑠衣が家族の中に入ってくるようになっていた。
とりわけ母さんは、最愛の男の顔をした瑠衣に、頼るように依存することも増えていた。
何かが歪み始めていた。
けれど、父さんの死を乗り越え、普通の生活を手にすることがどれだけ大変だったろう。
瑠衣は母さんだけでなく、自分にも良くしてくれた。
だから多少の疑問はあったけど、それでも前を向こうと必死で、何にも気付けなかったんだ。