渇望
「つーか、親父も親父だっつの。」


「…父さんにまで何かしたのかよっ…!」


「何もしてねぇっつの。
やっと感動の対面を果たしたから、金に困ってるって言っただけ。」


なのにそれからすぐにポックリ逝っちゃって、まるで俺の所為みたいじゃね?


ただの笑い話のように、瑠衣は言う。



「あの女もさ、前妻の息子だってわかってても、それでも良いって言うんだぜ?
薄汚いツラして喘いで、お前にも見せてやりたかったよ。」


悪魔だと思った。


こんな人間と同じ血を分けているだなんて、吐き気がする。



「お前は学校の勉強しか知らねぇだろうけど、この世の中は金が全てなんだよ。
俺はそのためだったら何でもするし、ババアに突っ込むのだって全然余裕。」


殺してやろうと思った。


これほど人を憎んだことなんてなくて、手が震える。



「まぁ結局、お前は俺にひれ伏すしかねぇの。」


まるでわからせるように、悪魔のような男は吐き捨てた。


今まで謎に包まれていた瑠衣の本当の姿は、それからすぐに知ることとなった。


当時、この街で瑠衣の名前を知らないヤツなんかいなかった。


傷害、恐喝、とにかく警察でさえマークしているほど、危ない男。


一年半ほど前に突然名が知られるようになり、どんどん巨大化していくチームはもはや組織にも近かった。


パクられるのは下っ端ばかりで、誰も瑠衣の指示だと口を割らない。


テッペンから他人を操り嘲笑い、死ぬことさえ恐れない冷酷なまでの強さは、畏怖にさえ値する。


瑠衣には失うものなんて何もなかったんだ。

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