渇望
意識が混濁していく中で、あぁ、死ぬのかな、と思った。


もう肋骨だってイッちゃってて、やめてくれとさえ言葉に出来ない。


首を傾け、目を細めて表情を崩すことさえない瑠衣を見ながら、鉄パイプが振り下ろされそうになった、その瞬間。



「はい、お終い。」


瑠衣の呟きに、男達の動きが止まる。


彼らは顔を見合わせ怪訝そうな表情を浮かべるが、でも瑠衣はおもむろに立ち上がった。



「終わりだっつってんの、聞いてんのかよ?」


「…いや、でもコイツは…」


食い下がろうとしたひとりの男に、



「うるせぇ!」


叫んだ瑠衣の声が廃倉庫に響く。


すんでのところで助けられることほど屈辱的なことはない。



「そいつ、俺の可愛い弟なわけ。」


瑠衣は言う。



「アキト、病院連れてってやるから。」


そこには何の企みもないほどの優しい顔があって、だから余計に怖かった。


今度は一体何を考えているのだろう、と。


そんな思考とは裏腹に、動かない体を瑠衣によって起こされる。



「そんな泣きそうな顔してんじゃねぇって。」


どうしてそんな悲しそうな顔をするのだろう。


今までそんな人間みたいな姿、見せたことはなかったくせに。

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