渇望
それから瑠衣は、本当に病院に運んでくれ、入院費の全てを立て替えてくれた。


それどころか、傷が原因で高熱にうなされる自分の傍にずっといてくれたのだ。


もう、何を信じれば良いのかもわからない。



「俺さ、もうこういうのもう辞めようかと思って。
金にもならねぇ連中まとめても、結局最後は年少も通り越してムショに放り込まれそうだしさぁ。」


瑠衣はまるで語りかけるように言う。


例えばそれは、礼拝堂で懺悔する姿にも見えるような、どこか頼りない瞳。



「なぁ、俺と一緒に来いよ。」


もうこの世界には、互いしかいなかった。


どんなに憎しみ合っても、目に見えない血の繋がりは大きすぎるものなのかもしれない。



「一番近い場所で、ふたりだけでゲームをしよう。」


喰うか喰われるか、殺すか殺されるかの、兄弟喧嘩。


今にして思えば、瑠衣は心のどこかで死ぬことを望んでいたのかもしれない。


最愛の女を探しながら、でも一方で、そんな自分自身に心底疲れて果てていたのだろうとも思う。


綺麗だとか汚いだとかで金を稼げるほど、この世の中は生易しくなかった。


そして、独りで生きられるほど人は強くもなかったのだろう。


ある日突然、瑠衣は全てから足を洗い、ホストになった。





あれからずっと、
その背中を追っている。



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