渇望
「俺らはさぁ、せめてもう少し違う顔だったら良かったのかもね。」


呟いたアキトの言葉が宙を舞う。


例えば根っからの悪いヤツはいない、なんて言うけれど、この人もまた、色んなものの狭間で揺れていたのだろう。


アキトは本当は、心の底から瑠衣を憎みきれないでいるのだろうし、瑠衣もまた同じなのかもしれない。


話を聞き終えた時にはもう、すっかり夕刻の頃が迫っていた。



「もう遅いのかもしれないけどね。
それでも百合をこんな俺らの“ゲーム”に巻き込みたくはなかったよ。」


「…そんなの、今更っ…」


「でも瑠衣だってきっとわかってると思うんだ。」


アキトはあたしとあの人にどうなってほしいのだろう。


あたしに、瑠衣に、何を願っているのだろう。



「じゃあどうしろって言うのよ!」


引き返すにはもう、あまりにも深い森の中にいる。


きっとはぐらかすのだって簡単だったろうに、どうして真実を包むことも隠すこともせずに告げてくれたのだろうか。


何も言わないアキトから目を逸らし、席を立った。


その瞬間に抱き締められて、驚いたと同時に体が硬直した。



「ごめんね、百合。」


その言葉の意味するところを、あたしは知らずにいたね。



「離して。」


呟くと、アキトは素直に従い、すぐにいつもの笑顔に戻っていた。


怒られちゃった、なんて可愛く言う姿からまた視線を外し、あたしはひとり、甘すぎる香り漂う部屋を後にする。


良くも悪くも、過去は何も変わらない。

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