渇望
真綾に連れて来られた場所は、庶民的な定食屋だった。


作業着姿のおっさんとか、仕事疲れしたサラリーマンなんかがいて、あたし達はかなり浮いている気がしてならないわけだが。


しかも、セルフだし。



「うち、ホンマはこういう方が好きやねん。
洒落た店もえぇけど、変に気張るんダルいやん?」


席に腰を下ろすと、彼女はそう言って笑った。


確かに、良くも悪くも街中の店とは大違いで、気を使う必要はなさそうだけど。


食事に端を落としていると、そういえば、と真綾は思い出したようにあたしを見た。



「辞めたいんやろ?」


「…いや、まぁ…」


そんなにストレートに聞かれると困ってしまうんだけど。



「うち、金必要なんはホンマやけど。
でも、やっぱ詩音さんやジローの力になってやりたいしなぁ。」


「…でも、病気がっ…」


「えぇねん、それは。
自分の体のことは自分が一番わかっとるし、死ぬこと怯えて暮らすん嫌やん?」


妙に潔く、彼女は言った。


それは決意しているような瞳で、だからあたしは口を開けない。



「てか、ジローは詩音さんしか見てないやん?」


「…真綾、知ってたの?」


「うち、そういうの気付いてしまうタイプやねん。
んで、ついつい気にしてしまうねん。」


そして味噌汁をすすりながら、



「ジローはどうしようもない馬鹿やけど、何か放っとけへんしなぁ。」

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