渇望
「……え?」


「あとどれだけの売り上げを上げれば、流星の最高額を越せんの?」


迷いはなかった。


けれど彼は、戸惑うような顔をする。



「あたし、アンタが馬鹿にされんのだけは許せないの。
これで辞めたら今度は逃げたって言われるし、それだけはさせない。」


「…おい、ちょっと待てって…」


「あたしが落としてあげるよ、そのお金。」


使い道のない金なら腐るほどある。


だからそれがジュンのためになるのならば、惜しくはなかったのだ。


他の誰でもなく、この人だったから。



「何でも良いから持って来させて。」


「やめろって!
そんなこと頼んでるわけじゃねぇだろ!」


「じゃあ、アンタのおばあちゃんのため、って言えば良い?」


ジュンが大切だった。


瑠衣とはまた違った意味で必要で、だから悲しそうな顔をしてほしくはないし、悪く言われるなんて許せない。


何を望むこともなかったけれど、でもそれがこの街に来て、唯一強く願ったこと。


金に綺麗も汚いもないけれど、それでも体を売って得たものがジュンに循環されるなら、少しはあたしも救われるかもしれないと思ったから。



「ジュンが罪悪感なんて持つ必要ないよ。
あたしが好きでやってるだけなんだし、たまには安くない酒も飲みたいってもんでしょ?」


そこらのキャバのナンバーワン程度になら負けない金を稼いでいた。


もしもそれさえ底をつくようなら、体を売ってまた稼げば良いのだから。


狂ったわけではなく、必死だった。


けれど目に見えて壊れ始めたのは、この瞬間だったと今では思う。

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