渇望
瑠衣はあたしが何をしたとしても、良くも悪くも何も言わないことはわかってる。


あの人の傍にいてあげたいと思う気持ちに変わりはない。


けれど一方で、ジュンの力にもなってあげたかったのだ。


好きだった。


そして最後まで選べなかった。


飲んだ酒が美味しかったかどうかなんて、もう全然わからなくなっていた。








「百合、ごめんな。」


飲み過ぎて、でもこの時のあたしは笑っていたと思う。


今日一晩で使った額は、きっと自分史に残るだろうな、と思うと笑えるけれど。


香織は流星のことを、流れ星なんかではないと言った。


でも最初から、消えることを運命づけられていた名前のようだと思う。


ジュンはあんな男の下じゃない。



「まぁ、百合様に感謝しなさいね。」


誰もいなくなり、明かりも消えたフロアで、動けないくせに大口を叩くあたし。


ジュンの肩にもたれ掛かっていると、もう眠ってしまいそうだった。



「でも、マジでもうこんなことしなくて良いから。」


「んじゃあ、あとは自分で稼ぎなさーい。」


ジュンに笑っててほしかったから、あたしが笑った。


笑ったのに、訪れたのは沈黙だった。


気付けば触れていたのは唇だったから。

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