渇望
「お兄ちゃんは結婚とかしたの?」


彼は黙ってかぶりを振る。



「じゃあさ、大切な人はいる?」


「いっぱいいるけど、百合もその中にいる。」


「何それ、キモいこと言うなよ。」


そんな風に言われても、きっとあたしはお兄ちゃんと同じようには思えないだろう。


やっぱり人の想いは一歩通行にしかならないのだろうか。



「百合がここに戻らない理由は、恋人か何か?」


そんなもの、いたこともない。


何より、瑠衣とは一生そんな関係にはなりえないとも思ってる。



「てか、あたしがマトモに恋愛してるように見える?」


「でも、あの時一緒だった彼は…」


「別にジュンはただのホストだし。」


必死でそう言い聞かせたかったのかもしれない。


彼はきっとあの街にいる限り、あたしのことを抱くことはないと思うから。


それはある意味では一番大切にしてくれているということかもしれないけれど、でもそんなあたしは何の価値もない女だから。


汚ないと言っていた瑠衣の台詞が頭の中で繰り返される。



「お兄ちゃんもさぁ、こんな妹に執着すんの、いい加減飽きない?」


「飽きる、飽きないの問題じゃないよ。
俺はきっと、百合が困ってたらどこへだって駆けつける。」


嘘でもそんな台詞を言えるのは、この人だからなのか、血の繋がりがあるからなのか。

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