渇望
彼女が戸締りをして、部屋の電気は全て消された。


鍵を閉め、最後にふたりで下まで降りると、何だか全部が終わってしまったことのよう。


瑠衣の車がそこにあった。


それは一瞬の出来事で、中から出てきた彼は、こちらを見る。



「…祥、子…」


呟かれたその名前は、あたしに向けられたものではない。


恐る恐る横の詩音さんに顔を向けると、彼女もまた、ただ驚くままに立ち尽くしていた。


嘘だと思いたかった。


けれど、今までの全ての糸が、ただ一本に繋がっていく。



「…何でお前が、ここにっ…」


刹那、弾かれたように逃げようとした詩音さんを、迷いなく瑠衣が制止する。



「待てよ、祥子!」


「やめてよ、離して!」





瑠衣、あたしはここにいるよ?

ねぇ、仕事辞めたんだよ?

あたしはアンタを選んだんだよ?





「ずっと探してた!
あの日から俺、祥子のこと忘れたことなんか一度もねぇんだ!」


「あたしは瑠衣に会いたくなかったの!」


取り乱した詩音さんと、必死で止めようとする瑠衣。


そこにはあたしの存在する隙さえなくて、ただ目の前の光景がゆっくりと動いている。


眩暈がして、死にたくなった。

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