渇望
アミという女と、それでも瑠衣は繋がっていた。


詩音さんと似ている気がしてはいたけれど、つまりはそれは、“祥子さん”の面影があったから。


月が霞んで見えるのは、心が泣いているからだと、そう言っていたけれど。


こんなに近くにいたなんてね。


あたしがここにいることさえ気付かないような瑠衣に、捨てられるかもしれないという恐怖を覚えた。


“祥子さん”が見つかれば、もうあたしの必要性はないんだ。


途端に体が震え出し、あたしは後ずさるようにその場から、逃げた。


こんな光景は、もうこれ以上は見られないから。


ここじゃないどこかに行きたい。







何年振りに走ったのかなんて定かじゃないけど、でもすぐに人の波があたしの姿を消してくれる。


もう呼吸さえも整えられなくなり、その場にうずくまると涙が溢れた。


誰も手を差し伸べてくれない。


雑踏だけが耳触りで、振り払うように塞ぐと、先ほどの残像が繰り返される。


瑠衣がどれほど“祥子さん”を愛していたのか、そして今でも心の中心にいる存在だったことも、頭ではわかっていたはずだったのに。


なのに、こんなのってないよ。


相手は詩音さんで、だから奪ってやろうなんて思えるはずもない。


瑠衣は最初から、誰のものでもなかったのに。


今までずっと必死で、きっともう離れられないんだと思っていたはずなのに、一瞬で全てが散った。


桜の色をしたネイルは、どこかに引っ掛けたのか、気付けば傷が入っていた。


もう終わりだ。



「百合?」

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