渇望
「残り物でごめんね。」


そう言ってアキトが出してくれたのは、カレー。


何だか向かい合わせに食卓を囲んでいると、無駄なことを考えるのも馬鹿らしくなってしまうが。


一口頬張ると、あまりの美味しさに驚いた。



「ちょっとこれ、何か隠し味でも使ってんの?」


「あ、わかる?
あのね、インド料理の店やってる人がスパイスとか配合してくれたの。」


「それって本格的すぎでしょ。」


「まぁ、俺が作ったんじゃないけどね。」


じゃあ誰が作ったのか、ということは敢えて聞かなかった。


とりあえず落ち着くとお腹が空くのは当然で、だから少し呆れながらも食べるあたしを見たアキトは、満足そうな顔で笑う。


何だかあたしは、拾われた犬のようだけど。


半分ほど食べ終えたところで手を止め、あたしは僅かに息を吐いた。



「聞いてくれる?」


「うん。」


きっと言う必要はなかったのかもしれない。


それでも、もう何かを隠すことにも疲れ果て、だから半分は漏らすように宙を仰いだ。



「瑠衣、探してる人に会っちゃった。」


「……え?」


アキトはその瞬間に目を丸くするが、



「だからあたし、何かその場にいられなくなってさ。」

< 259 / 394 >

この作品をシェア

pagetop