渇望
月と金属音
街を見渡した時、改めてこの場所には自分の居場所なんかどこにもなかったのだと思い知らされた気がした。
溶け込んでいるはずなのに、完全に溶けてなくなってはくれない。
人で溢れているはずなのに、誰もがみな、ただ通り過ぎていく。
夜に降っていた雨は止んだものの、街の汚らしさと独特の路面の匂いが鼻を刺し、ひどく嫌忌な気分にさせられる。
未だに空は曇ったままで、ちっとも朝が来る気配なんて見られないんだから。
梅雨が近いことを思わせた。
携帯が着信の音を鳴らしたのは、そんな時。
今更あたし達が向かい合わせに座って、何を話すことがあるだろう。
なのにどうしてあたしは、通話ボタンを押してしまったのだろう。
そんなことをぼんやりと考えていると、目の前に置かれたのはコーヒーのカップ。
「百合ちゃん、ごめんなさい。」
口を開いたのは、詩音さん。
「こんな運命って、皮肉よね。」
そうですね、と言えるほどの気力はない。
彼女から電話が鳴り、再び事務所に呼ばれたのは、先ほどのこと。
瑠衣の姿はここにはない。
「まさか、百合ちゃんの恋人が瑠衣だったなんて…」
「そんなんじゃないですから。」
遮るように言った後で、自分がどれほど刺々しく言葉を発したかを自覚した。
だから思わず嫌になって目を逸らすと、詩音さんまでも、視線を下げる。
溶け込んでいるはずなのに、完全に溶けてなくなってはくれない。
人で溢れているはずなのに、誰もがみな、ただ通り過ぎていく。
夜に降っていた雨は止んだものの、街の汚らしさと独特の路面の匂いが鼻を刺し、ひどく嫌忌な気分にさせられる。
未だに空は曇ったままで、ちっとも朝が来る気配なんて見られないんだから。
梅雨が近いことを思わせた。
携帯が着信の音を鳴らしたのは、そんな時。
今更あたし達が向かい合わせに座って、何を話すことがあるだろう。
なのにどうしてあたしは、通話ボタンを押してしまったのだろう。
そんなことをぼんやりと考えていると、目の前に置かれたのはコーヒーのカップ。
「百合ちゃん、ごめんなさい。」
口を開いたのは、詩音さん。
「こんな運命って、皮肉よね。」
そうですね、と言えるほどの気力はない。
彼女から電話が鳴り、再び事務所に呼ばれたのは、先ほどのこと。
瑠衣の姿はここにはない。
「まさか、百合ちゃんの恋人が瑠衣だったなんて…」
「そんなんじゃないですから。」
遮るように言った後で、自分がどれほど刺々しく言葉を発したかを自覚した。
だから思わず嫌になって目を逸らすと、詩音さんまでも、視線を下げる。