渇望
仲良くしているふたりを見ると、やはり先ほどのことが何なのかと思ってしまうが。


アキトはケラケラと笑いながら、相変わらず人のビールを煽り、そして馴れ馴れしくもあたしの肩を抱いてきた。


未だ心臓の鼓動が幾分早いのは、どちらの男の所為なのか。



「なぁ、とりあえず食い終わったし、これからどうする?」


「面倒臭ぇよ、もう帰ろうぜ。」


眉を寄せたのは瑠衣だった。


アキトはその瞬間につまんなそうな顔をするが、あたしも帰るとついでに言った。



「んじゃあ、送るわ。
百合どの辺に住んでんの?」


「俺んちで良いよ。」


瑠衣に言葉を遮られたアキトはぎょっとしているが、あたしは未だその意味を理解出来なかった。



「何でアンタが決めんのよ。」


「良いじゃん、俺とお前の仲なんだし。」


先ほどアキトが言った言葉そのままを返され、軽い眩暈さえ覚えてしまうが。


確かに、会いたくなかったわけではない。


けど、どうしてそういうことになるのかがわからない。



「百合、どうする?
瑠衣んとこ行くなら、送るけど。」


どうするか、なんて聞かれても困ってしまうけど。


咥え煙草の瑠衣は、まるであたしを試すような瞳を向ける。


やっぱりそれは人を欲望に駆らせるような艶のあるもので、だから気付けばあたしは口を開いていたのだろう。



「じゃあ、行く。」

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