渇望
少し落ち着くために、煙草を吸う。


すると喉が渇くから、酒を飲んで誤魔化して、そんな無意味なことの繰り返しだ。


瑠衣の左手の人差し指には、今も絆創膏が巻かれている。


それの意味するところなんて知らないけれど、聞いたってまたはぐらかされるのは目に見えていたから。



「百合、せめて何か食ってからにしろよ。」


それでも瑠衣は止めたりはしない。


ジュンがこんなあたしを見たら、何を言うだろうか。


例え誰に知られたとしても、あの人にだけはこんな姿は見せたくはなかった。



「なぁ、聞いてんの?」


あたしが返事さえ返さなかったことに舌打ちを混じらせた瑠衣によって、腕を取られた。


そのままベッドへと投げられると、軋んだそれのスプリングの音は、声にならない悲鳴のようだ。


あたし達は一緒に暮らし出したはずなのに、やっぱり互いのことのみを考えているかというと、そうではない。


だからこそ、必死だったのかもしれないけれど。



「百合。」


瑠衣があたしの名前を呼ぶ。


こんなにも体を重ねているのに、ちっともひとつにはなれないね。


ただ、孤独が夜に溶けて、それが余計に世界を真っ黒い色に染めていくんだ。


それはこの男の瞳の色と同じくらい、漆黒だった。

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