渇望
「ねぇ、大丈夫なの?」


「全然余裕やん。」


笑った真綾を無視し、ジローが横から嘘つけ、と口を挟む。



「後ちょっと遅かったら大変なことになってた、って怒られたんだからな。」


その言葉にどれほど真実味があるかは、一目瞭然だ。


何も言えないでいるあたしに彼は、



「まぁ、とりあえずは安心して良いけど。」


どういう意味だろう。


けれど、聞くより先に、真綾は子供みたいな顔して口を尖らせた。



「百合りん、これ見てや。」


そう言って、彼女はパジャマのボタンを外し、胸元を広げた。


そこには、ぐるぐると巻かれた包帯がある。


思わず目を見開いて困惑するあたしに真綾は、



「緊急手術やって。」


「……え?」


「うちがあれだけ迷ってたのに、運ばれて、麻酔されて、起きた時にはこれやで?」


ホンマ、何やねん。


そう呟いて、彼女は悔しそうな色を滲ませる。


真綾は何でも自分の意志で決め、これまで生きてきた。


だから知らない間に自分が死んでいたかもしれないことを、不服に思っているのだろう。

< 285 / 394 >

この作品をシェア

pagetop