渇望
それはもしかしたら、あたし自身のことを言っているのかもしれない。


ただ、過ぎゆくだけの毎日の中で、生きることにも疲れ果てていた。


だから思わず言葉に詰まり、顔を俯かせてしまうのだけど。



「どないしたん?
折角念願叶って仕事辞められたはずやのに、百合りんはちっとも幸せそうじゃないね。」


そう、点滴の管に繋がれた細い右手が、あたしへと持ち上げられる。


それはひどく痛々しいはずなのに、不思議と怖いとは感じない。


だから迷わずその手を取った。



「これってさ、罰なのかな、って。」


「…罰?」


「体売ってた、罰。」


呟くように言うあたしに、真綾は少し悲しそうな顔をした。


辞めたからって悪いことをしていた過去が清算されるなんてことは決してなく、だから瑠衣があたしを見ないのも当然なのかもしれない。


あの人の体から、アミさんの香りはいつの間にか消えていた。


けれどそれは、喜べることなんかじゃないんだ。


詩音さんと似ているあの女を抱かなくなったということは、一体何を意味しているのか。


考えるだけ不安は増した。



「何があったかはわからへんけど、自分のことばっか責めたらあかんよ。」


真綾は言う。



「うちから見たら、健康なだけでも幸せ者やと思うで。
やから、悲しいことばっかに目を向けるんは、良いことじゃないねん。」


果てしなく青い空に、飛行機雲の筋が描かれている。


ただ、彼女の言葉に何故だか泣けて、それ全部、空の眩しさの所為にした。


優しい風が吹き抜ける。

< 291 / 394 >

この作品をシェア

pagetop