渇望
疲れたのか、薬の所為なのか、程無くして真綾は寝息を立て始めた。


帰る気にもなれずにそのまま手を握って寝顔を見つめていると、30分くらい過ぎた頃だろうか、ドアをノックする音が響く。


顔を覗かせたのはジローだった。



「あ、寝ちゃったのか。」


「うん、ちょっと前にね。」


立ち上がると、彼はそんなあたしにコンビニの袋の中からジュースを差し出してくれた。


それを受け取ると、ジローはひどく優しい顔で真綾の傍に寄る。



「何だかんだで、百合に会えて嬉しかったんだろうね。」


彼の指先が真綾の頬に触れた。


ただそれだけのことで、予感が生まれる。


もしかしたらジローはもう、詩音さんを最優先に考えるようなことはないのかもしれない、と。



「こんなになるまで無理させてたんだよな、俺ら。」


彼は迷うことなくその手を握る。



「こんな姿見て、初めて思ったんだ。
真綾が生きててくれたら、もうそれだけで良いってゆーかさ。」


そう言って笑った後、



「傷とかそういうの、大した問題じゃないのにな。」


ジローはきっと、彼女の辛さをわかってて、それでも文句ひとつ言わずに傍に居てあげているのだろう。


同情でも責任でもなく、ただ、ひとりの人として。



「俺、仕事辞めようと思ってんだ。」

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