渇望
少し陽も傾き始めた頃、当てもなく街を彷徨っている時だった。


百合、と呼び止める声に足を止めてしまう。


振り返ると、彼は少し息を切らせ、こちらへと駆け寄ってきた。



「…ジュン…」


ジュンとはもう、どれくらいぶりに会ったのかも思い出せない。


だから思わず顔を俯かせてしまえば、簡単に人の波に飲み込まれてしまいそうになる。



「なぁ、ずっと何やってた?」


責めるでもなく、彼は煙草を咥える。



「つか、俺が言うなよ、って感じだけどさ。」


キスをして別れた日以来、連絡さえ取らなかった。


それでもいつものように笑って見せてくれるジュンは、やっぱり嫌いになれなくて困る。


街は次第に西日の色に染まっていく。



「店、辞めたって聞いた。」


「…うん。」


「じゃあ、あの男とも上手くいってるってことだよな?」


答えられない。


そんなあたしを見たジュンは、何か言いたげに、悲しそうな顔に変わってしまう。


だから会いたくなんてなかったのに。



「俺は別に、お前が瑠衣って男が好きで、幸せならそれで良いんだけどさ。」


そこまで言い、でも、と彼は言葉を切る。



「何でさっきからずっと、そんな泣きそうな顔してんの?」

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