渇望
弾かれたように顔を上げると、目が合って、またどうすることも出来なくなる。


泣き事を言ってしまいそうな自分が怖い。



「なぁ、俺がわかんないとか思ってる?」


「…何、言って…」


「今のお前、見てらんねぇよ。」


必死そうな、ジュンの顔。


どうして立ち去ることすら出来ないのか。



「オーシャンのナンバーワンに心配されるだなんて、あたしって幸せな女だね。」


だから皮肉混じりにやっと言葉を返したのに、



「ホストに心配されたくない、って?」


ジュンは眉を潜めた。


この人の本気で怒る姿なんて、初めてなのかもしれないけれど。



「ホストはダメで、未だにシャブに染まってる男なら良いってこと?」


「…えっ…」


「なら、俺が仕事辞めれば良い?
そしたらお前はもう、そんな顔しねぇの?」


話しについていけなくて、戸惑うことしか出来なかった。


だからまたあたしが顔を俯かせると、ジュンは苦々しそうに舌打ちを混じらせる。



「つーか俺、やっぱホスト向いてないわ。」


それだけ言い、彼はきびすを返して人の波に消えてしまう。


折角考えないようにしていたジュンの存在が、こうして会うだけでまた、大きくなる。


言い逃げをした彼と、答えなかったあたしは、一体どちらの方が卑怯なのか。

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