渇望
右を見ても左を見ても、胡散臭くて嫌になる。


路地裏にたむろしてる男達が何を咥えてるのかなんて目を凝らしたくもないし、紋付な連中は通りを占拠。


クラクションが響き渡り、怒声が飛んでいた。


確か先週、すぐそこのビルで放火事件があったらしいけれど。


まぁ、それすら日常。


出勤前のキャバクラ嬢も、キャッチ野郎も、普通のサラリーマンでさえも、瞳を濁らせて歩いている。


この場所に集まる人たちは、一体何を求めているのだろう。


毎日飽きるほどに見慣れた光景には、ため息以外には出ないわけだが。





空の色がわからない。





それはあたしの瞳もまた濁っているからなのか、それとも淀んだ空気の所為なのか。


迎える夜を彩るのは、目もくらむような人工の光。


だからいつも、あたしは俯き加減で街を行く。


きっと、溶け込んでいるのかもしれないけれど。


この街に、汚れた人々に、欲望に、染まりきっている自分自身は、笑い方さえ忘れてしまった。


息が詰まりそうだ。


当てもなくふらふらしていると、知り合いの男に声を掛けられた。


コイツはクラブ関係者を豪語していて、適当に仲良くなって以来、タダで中に入れてもらっている。


今日もおいでよ、という言葉にいざなわれ、あたしは彼の後に続いた。

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