渇望
「タクる時とか、住所わかんねぇと困るだろ?」


あぁ、なるほど。


なんて関心している場合ではないのかもしれない。



「俺に会いたきゃいつでも来いよ。」


スカした顔に、あたしは開いた口が塞がらなくなりそうだ。



「おい、聞いてんのか。」


と、いう言葉は聞き流し、受け取った紙切れを財布に仕舞った。


瑠衣はあからさまに舌打ちを混じらせ、上着を羽織る。



「俺、出掛けるから。
お前も帰るなら、ついでに送ってやるよ。」


「…鍵、ないと困るんじゃないの?」


「スペアもう一個あるから。」


ふうん、と呟き、手の平の中のそれに視線を落とした。


まさかあたしみたいなのが、こんなのを持つとは思わなかったけど。



「おい、置いてくぞ!」


急かされ、仕方がなくもあたしは、荷物を持って部屋を出た。


決して恋人なんて甘いものじゃないし、ましてや相手は、こんな街で出会った男だ。


けれどもあたしは、それに素直に従っていた。


大して何を思うでもなく、それがあたし達の関係であるように感じていたのかもしれない。

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