渇望
「それよりさ、百合こそどうなんだよ?」


「え?」


「最近どうしてんの?」


興味本位でもなく聞いて来る彼に、あたしは困ったように笑って見せた。


まさか、結婚します、だなんて恥ずかしいことを、コイツに言えるはずもない。



「あたしも近々、この街出ようと思ってるの。」


「マジで?」


「うん、色々あってさ。」


目を丸くしていたジローは、もしかして、とあたしを見た。



「あのオーシャンのナンバーワンの男と?」


「……え?」


「真綾からちょっと聞いたんだけどさ。
何か同郷で、しかも仲良いんだって?」


ジュンのことを言われると、途端に迷いが生まれてしまう。


いつも彼の気持ちをはぐらかしてばかりで、おまけに勝手に連絡を絶っている。


だからこのままで本当に良いのだろうか、という疑念まで湧き出す始末だ。


まだ平べったいあたしのお腹には、確かに新たな命が宿っているというのに。



「ジュンなわけないじゃん。」


「まぁ、そりゃそうだよな。
ジュンってヤツ、今すごい勢いあるって聞いたし。」


ジローは思い出したように言いながら、新しい煙草に火をつけた。


ジュンが頑張っているという話を聞く度に、何とも言えない気持ちになるのは何故だろう。

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