渇望
「そういや、香織は執行猶予刑に決まったんだってね。
流星ってヤツは、一年二ヶ月の実刑らしいけど。」


「そうらしいね。」


あたしが相槌だけを返すと、ジローは宙に向かって煙を吐き出した。



「この街は、常に濁流の中にあるみたいだな。」


「すぐに流れに呑まれちゃうもんね。」


色んな事がちょっと前の出来事なはずなのに、もう何もかもが違ってて、元には戻らないんだから。


まぁ、まさかジローとこんな風にして、感慨にふけるなんて思いもしなかったけど。


良くも悪くも、この街で生きた果ての、それぞれの人生ということだろう。



「あ、そうだ!」


「ちょっと、今度は何よ?」


怪訝な顔をして聞いたのに、



「いや、それがさぁ。
百合、ピンクルームってヘルス知ってるよな?」


「知ってるけど、それが何?」


「あそこ、未成年者を働かせてたからって摘発されたんだって。」


「何それ、自業自得じゃん。」


そうなんだけど、と言葉を切ったジローは、少し深刻そうな顔をした。



「ナイトジュエルも風営法違反でちょっと前に強制捜査入ったし。
何か警察も一斉摘発に動いてるっぽいんだよ。」


そこまで言われて、初めて彼の言わんとしていることを理解した。


つまりはクリスタルも危ないかもしれない、ということだ。



「まぁ、もう俺らは、半端に関わるようなことはしない方が良いけど。」

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