渇望
ジローの言っていることはよくわかるし、正しいとも思う。


下手に心配すべきではないし、あたし達はもう、クリスタルや詩音さんとは無関係になった人間なのだから。


何より、関わって巻き添えになることだけは困る。


ひどい言い方なのかもしれないけれど、今のあたし達に出来ることは何もない。



「けど、アンタはホントにそれで良いの?」


詩音さんのこと、心配じゃないんだろうか。



「正直なこと言うと、気にならないって言えば嘘になる。
でもあの人は、きっと俺を頼ったりなんかしないだろうから。」


少し悲しそうに、ジローは言った。



「辞めるって言った時もさ、俺、引き留められもしなかったんだ。」


「…そう。」


「そうだよ、あんなに何もかもを犠牲にして、店のために働いてたのにさ。
元気でね、って言われた時、あぁ、もう俺ってホントに必要ないんだなぁ、って。」


彼の幸せを願って、強がりで言っただけのことだったとしても、ジローはその言葉で詩音さんとの決別を決意したのだろうから。


だからもう、何も言えなかった。



「俺、百合からのあんなにひどい仕打ちにも耐えたのに。」


ジローは顔を戻し、わざとらしく言う。



「ちょっと、それじゃああたし、意地悪おばさんみたいじゃない。」


「まぁ、初めて会った時からコイツはムカつく女だ、って思ってたけどね。」


「それ、あたしの台詞だっての。
ジローほど腹立つヤツいなかったから。」


やっぱりお互い様のようだ。


だから笑ってしまい、あたしは真綾の病室に行くために立ち上がった。

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