渇望
あれ以来、あたし達はほとんど間を置かずにどちらかの家で会っている。


仕事が終わる時間なんて毎日互いにバラバラだし、彼に至っては、深夜に呼び出されることも日常だった。


だから一緒にご飯を食べることすらないけれど、でも決まり事でもないのに抱き合って眠るのだ。


セックスを求められるわけではない。


身を寄せ合うことに、何を求めているのかはわからない。


それでも彼の存在が、きっと心のどこかで安堵感に繋がるようになっていたのかもしれないけれど。


あたしは瑠衣の部屋の鍵を持っているし、瑠衣もまた、あたしの部屋の鍵を持っている。


ただそれだけのこと。







「お前さぁ、連絡くらいしてこいっつの。
その辺で野垂れ死んでんのかと思ったじゃねぇか。」


「アンタ、どんな心配の仕方してんのよ。」


荷物を放り投げ、冷蔵庫を開けた。


飲み物以外には何も見当たらず、仕方がなくも瑠衣と同じようにビールを取り出す。



「てか、見事に何もないね。
材料あるなら適当な物でも作ろうかと思ったけど。」


苦味を流し込みながらキッチンの下の引き出しを見るも、包丁さえ見当たらない。


これじゃあ材料以前の問題だろうと、呆れて言葉も出なかった。

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