渇望
病室に入るなり、百合りーん、と真綾は元気そうな様子で笑っていた。


ちなみにジローは、俺いない方が良いだろ、と言ってどこかに行ってしまったのだけど。



「これ、花。」


少し小ぶりの花束だけど、渡した瞬間、彼女はぱあっと顔を明るくした。



「ありがとうな、ホンマ嬉しい!
でもやっぱ百合りんには似合わへんね。」


「それ、ジローにも言われたよ。」


「あぁ、会ったん?」


「喫煙所でね。」


そんな会話を交わしながら、あたしは丸椅子へと腰を降ろした。


相変わらずこの病室は、夏だというのに風の通りが良くて、居心地が良い。



「退院、もうすぐなんだってね。」


「そうやねん、もうウズウズしてるわ。」


「ちょっとちょっと、張り切り過ぎて再入院なんかしないでよ?」


「そんなアホちゃうっちゅーねん。」


真綾は少し前に会った時よりずっと、顔色が良くなっていて、安心した。


しかも今日は、点滴さえしていない。



「けど、ジローも嬉しそうだったよ。」


あぁ、と言った彼女は、途端に気まずそうな顔をする。



「うち、アイツにいっぱい迷惑掛けてしもうてん。
仕事だって結局辞めてしもうたみたいやし、責任感じるわ。」


「ジローがそんなこと思ってるはずないじゃんか。」


人は誰でも不安になるし、それは真綾だって例外ではないのだろう。


何だか可愛くて、笑ってしまいそうになるけど。

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