渇望
「うちな、ジローは初め、同情してるだけやと思っててん。」


「うん。」


「でも、何かしょーもないこと言って毎日笑わせてくれるしな。
多分アイツおったから、辛い入院生活も何とかやってこれたんやろうなぁ、って。」


真綾はテレ隠しのように、口をすぼめて話す。



「情けないことに、気付いたらうち、どんどん好きになっていくねん。」


頬を赤らめて言う彼女の姿は、まるで中学生のようだ。


それは、病人だから、とか何の関係もなく、恋するひとりの女の子、という感じ。


あたしと瑠衣は、やっぱりこんな風にはなれないだろうけど。



「でもな、退院したらもうお別れやろうし、そう思うとちょっと寂しいねんけど。」


「何言ってんのよ、もっとジローのこと信じてあげれば?」


「…へ?」


「普通さ、いくらお人好しなヤツでも、ここまで親身にはなれないって。
その意味、ちゃんとわかってあげなよ。」


言うと、真綾はみるみるうちに頬が林檎のような色になる。


てか、何であたし、この子の恋愛相談に乗ってんだかわかんないけど。



「あかんわ、慣れてへん会話すると血圧上がりそうや。」


「おっさんかっての!」


突っ込んで、また笑った。



「まぁ、真綾はモテないんだし、素直でいなきゃ相手が逃げちゃうよ。」


「うわっ、どんだけ上から目線やねん!」


真綾が真綾でいてくれることだけで、嬉しくなれる。


きっとジローはいつも、こんな気持ちを抱いて彼女の傍にいるのだろう。


想像するだけで、何故だか胸の中に、あたたかいものが生まれた気がした。

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