渇望
「てゆーかぶっちゃけ、付き合ってんの?」


そんなわけないやんか、と彼女は言う。



「チューなんかしてないどころか、手だって繋いだことあらへんわ。」


まさか、あの男が何もしていないだなんて。


若干信じられないが、でもジローなりに大事にしているということだろう。



「で、不安なわけだ?」


こくりと真綾の頭が上下した。


その様子に、やっぱりあたしは声を上げて笑ってしまうのだけれど。



「じゃあ、コクっちゃえば早くない?」


「なっ、何言うてんねん!」


「だって、相手と向き合って、思ってることちゃんと言い合え、って言ったのはアンタでしょ?」


「…いや、そらそうやけど…」


そんな会話をしていると、扉が開いて、当のジロー本人が顔を覗かせた。


話の内容が内容だっただけに、聞かれたのではとドギマギしている真綾には、やっぱり笑ってしまうのだけど。


彼は迷うこともなくベッドサイドに腰を降ろし、あたし達に飲み物を手渡してくれる。


どうやら聞かれてはいなかったみたいだけど。



「てゆーか、こんなに十六茶ばっかいらんやろ。」


真綾は誤魔化すようにジローの体をぺしぺしと叩いていた。



「だって十六種類も健康に良いもん配合されてんだよ?」


「アンタはやっぱり馬鹿な男やなぁ。」


「いやいや、俺これでも真綾と違って高卒ですから。」


「アンタ、中卒やからってうちのこと馬鹿にしてるんやろう?」


そんなふたりの小競り合いを、あたしはまるで保護者のように笑って見ていた。

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