渇望
それから、真綾の退院は、正式に来週だと決まったようだ。


検査結果が遅れてるというので、前より少し入院が伸びることになってしまったらしいけど。


そして明日はいよいよ花火大会の日。


いや、すでに午前零時を過ぎているので、正確には“今日”と言うべきかもしれないが。


あたしにとっては今年の夏、最初で最後のイベントであり、それが終われば瑠衣とふたり、この街を出る約束だ。


それは同時に、ここでの最後の思い出作りという意味でもあるのだろうけど。


不安がないと言えば嘘になる。


でも、だからこそ、わざとのように楽しい想像ばかりに胸を膨らませていた。



「ねぇ、明日何時に出る?
渋滞しそうだし、早めの方が良いよね。」


「けど俺ら、河川敷で見るわけじゃないんだし、そんな早く出てもなぁ。」


「だって時間決めとかないと、準備に時間掛かるじゃんかぁ。」


「そりゃお前だけだろ。」


空に咲く大輪の花を想像すると、心が躍った。


あたしと瑠衣と、そして赤ちゃんとアキト、みんなで見られる気がしたから。


鼻歌なんかを混じらせてベランダから夜空を眺めていると、中から瑠衣が、体冷やすなよ、と声を掛けてくれる。


そんな、他愛もないだけの時間が過ぎていた。


その刹那。


けたたましく鳴り響いたのはあたしの携帯の音で、こんな時間に一体誰だろうと思い、それを持ち上げディスプレイを確認した。


そこには、“詩音さん”と表示されている。

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