渇望
どうして?


たったこれだけのことで、何故だか裏切られた気分になる。



「祥子、何か摘発がどうのとかってパニクってんだ。」


「だから、何?」


「何、って。
とりあえずひとりにさせられねぇだろ?」


じゃあ、あたしはどうなるの?


何で詩音さんが泣きながら電話してきたからって、そっちに行くの?



「行かないでよ!」


声を荒げると、瑠衣はひどく驚いたように目を丸くしていた。



「ちょっとってどれくらい?
あたしはひとりでも大丈夫なわけ?!
赤ちゃんいるんだよ!」


子供を引き留めるための道具にするのは間違っているのかもしれない。


けれど、どうしてもあの人のところにだけは行ってほしくなかった。


だってもう二度と瑠衣が帰ってこなくなりそうで、堪らなく怖くなるから。



「百合、頼むから。」


彼は言う。



「花火までには戻ってくるから。」


「ふざけないでよ、それだけは嫌!
そんなの許さないし、あんな人のところになんか行かないで!」


「百合!」


制止の言葉に、あたしはぐっと唇を噛み締めた。



「どうしても行くって言うなら、あたしはアンタのこと待たないから。」

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