渇望
泣きながら睨むように、つまりはあたしと詩音さんのどちらを選ぶのか、と迫ったのに。


なのに瑠衣は、ごめんな、の言葉ひとつを残し、あたしに背を向け部屋を出た。


ねぇ、あたしの存在って、一体何?


瑠衣はきっと、心のどこかで、あたしが何を言おうとも、結局は離れられないのだと思っているのかもしれない。


けれどもう、無理に決まってるんだ。


これは捨てられたに等しくて、もう瑠衣の帰りだけを待ち侘びることに耐えられるほど、心を強くは出来なかった。


子供が居ても、あたしは所詮、あの人にとって一番にはなれないんだ。


束の間の幸せさえも、詩音さんからのたった一本の電話によって壊される。


こんな時、決まってあたしを見つけ出し、声を掛けてくれたアキトは、もういない。


夜の静寂が、ただ部屋を包みこんでいた。


泣き過ぎて、全身が酸素を求めるように小さく痙攣を始めると、感覚さえも曖昧になっていく。


その手で無意識のうちに携帯を手繰り寄せ、気付けば通話ボタンを押していた。



『百合?』


電話口から聞こえた声に、どうしようもない安堵の息が震えていた。


これは卑怯なことで、そして最低なのかもしれない。


それでももう、善悪さえも正常に判断出来るほど、脳はまともに機能なんてしていなかった。



「…ジュン、あたしもうダメだよ…」


これじゃあまるで、詩音さんみたいじゃないか。


そう思う反面で、一度吐き出した弱音は決壊してしまったように、口から漏れ落ちる。



「…ねぇ、助けてよ…」

< 347 / 394 >

この作品をシェア

pagetop